Invisibl Skratch Piklz “From Skratch”

August 28, 2015

DJ Qbert率いるターンテーブル集団Invisibl Skratch Piklzが、キャリア20年以上にして初のアルバム『The 13th Floor』をレコーディングするためRed Bull Studios Tokyoを訪れた。その際の貴重なドキュメンタリー映像とインタビュー記事を同時公開。

Interview and text by Masaaki Kobayashi
Translation by Danny Masao Winston
Photo by Yusaku Aoki

あのInvisibl Skratch Piklzがアルバムを出すのだという。

そもそも、これまで彼らがオリジナル・アルバムを作ったことがあっただろうか? その原型となったグループを含めれば、1989年から活動を始め、メンバーをマイナー・チェンジし続けながら、活動を停止した2000年までの間に、録音作品としてはミックステープが中心で、アルバムといっても、DJバトルで見せたルーティンを再演し、録音したものがあるだけだ。

とはいうものの、急にアルバムを作ることになったような気配は見られない。
2000年以降もメンバー相互で、同じイベントでパフォーマンスやコラボを披露するなど、付かず離れずの状態がずっと維持されているように見えたからだ。
と同時に、特にメンバーのひとりであるQbertは、昨年だけでも『Extraterrestria』と『GalaXXXian』の2作のオリジナル・アルバムを出してしまうほど、創作意欲に満ち溢れているような現状もある。

今年9月にはNo.1のDJを決める世界大会「Red Bull Thre3Style 2015」のワールドファイナルが日本初開催を迎えるのだが、そこにDJ Qbert率いるターンテーブル集団Invisibl Skratch Piklzがスペシャルゲストとして出演することが決定した。
そんな絶好のタイミングに照準をあわせたかのように、「Red Bull Thre3Style」の初期から関わっているという彼らに、Invisibl Skratch Piklz名義としてのアルバムを、渋谷にある「Red Bull Studios Tokyo」でレコーディングしないか?とのオファーがもちかけられたというのである。

東京でのレコーディングも最終局面に入っていた2015年4月24日、音楽的な方向性も口ぶりも攻めのスタンスを崩さないD-Styles、どこか人のよさそうな(いや、実際に、取材が終わると同時に先に握手を求めてくる人ではある)Shorkut、そして、とても理知的な物腰のQbertの3人全員が揃うレコーディング・スタジオへと向かった。

現場に入った途端、偶然にも目があったYogafrogは、カメラを片手に、取材風景全体を記録しようとしていて、一向に席に着く気配がないのでおかしいなと思っていたところ、現在彼は、アイデアを出すなどの形で作品作りに関わっているとはいえ、基本的にはグループのマネージメント全般を担当しているのだという。
そう、これは、彼らにとってのデビュー・アルバムなのだ。



ドキュメンタリー映像『From Skratch』本編はこちら


今日、ここにいる4人全員は、2001年の映画『Wave Twisters』に様々な形で携わっています。
あの作品では、スクラッチが信じられないようなすさまじい力を発揮し、失われてしまった(という設定の)ヒップホップの四要素(ブレイクダンス、グラフィティ、MC、DJ)を発見、救出、解放する、というユニークな物語が展開されます。
その映画から、すでに14年以上が経過していますが、その間に、各人が様々な仕事を残してきています。そのなかでも、特に、これは自分にとって重要だったな、と思えるものを教えてください。

Qbert:『Wave Twisters』以来、またアルバムを作ったんだ。新しい映画も作りたいと思っているんだけど、今やろうとしているのは、色々な惑星の百科事典を作りたいんだ。そのために曲も何曲か作った。宇宙人の生活をいろいろ調べたりしてね。2、3年後には日の目を見るんじゃないかな。
それがひとつと、今とりかかっているこのアルバムだね。もう99%完成している。そうだよな?

D-Styles:そうだね。

Shorkut:俺もQと同じで、今回のが一番デカい。俺はガキの頃から、この二人にくっついていて、何年もバトルを見てきた。
そんな俺がこのクルーの一員で、曲作りを手伝えてるのだから、二人には感謝の気持ちしかない。学ぶところも多いし。二人は、俺にとってスクラッチ界のレノンとマッカートニーなんだ。今でも俺はファンだし。おかげで常に活動意欲が湧いてくる。

D-Styles:俺は『Wave Twisters』のレコーディングをするQの姿を見て、それに触発されたものを、自分のソロ・アルバムでも活かせた。今回はバンドみたいな形で、ライブを演れたのがよかったね。みんなでスタジオで音楽を作って、ライブを演るのはエキサイティングだ。


Invisibl Skratch Piklzは、これまでにメンバーに細かな変動がありましたが、なぜ今回はこの3人になったのですか?

Shorkut:他のみんなは忙しかったし、個々人の活動のほうにかかりっきりで、なかなか集まれなかったというのもある。Qと俺はLAで、Dはサンフランシスコだから、コラボしやすいんだ。


今回、こうしてInvisibl Skratch Piklzとしてアルバムを作ることになりましたが、あなたがたとしては、リユニオン的なものと考えているのでしょうか?
それとも、ようやくアルバムを出せるところまできた、という感じなのでしょうか。

Qbert:スタート地点に立ったという感じだね。みんなで集まって、今までいろいろやったことをミックスして、またユニークなことをやってみようかと。

D-Styles:これまでもスクラッチ・ミュージックは聴かれてきたわけだし、90年代とかは、トリップホップ、(DJ)KRUSHや(DJ)シャドウを通じて表現されてきたけど、そのあとは切望されている状態になった。そこで今回は、よりいっそうユニークなものとして聴いてもらいたいと思ったんだ。

Shorkut:スクラッチは前からずっとあるものなのに、一度も聴いたことがないという人たちもいるしね。

D-Styles:DJそのものは、すっかりビッグな存在になったけど、テクノロジーの発達のおかげで、セレブDJだかなんだか、ロクにミックスもできない、DJも知らない、そんなニセモノどもが蔓延っていて、ひでえなってのもある。


そもそも、今回の作品の最初のきっかけは?

D-Styles:以前、QbertとShorkutがLAから、俺が住んでいるサンフランシスコに来て、2、3日ほどショウを演ったことがあって、その時に出てきたアイデアがあり、それは大雑把なものだったけど、それを実際にライブで演ってみようってことになった。それに色づけしていった感じだね。


今回のアルバムは、日本のRed Bull Studios Tokyoでレコーディングしませんか、というオファーがきてから、制作に取りかかったものなのですか?
それとも、それ以前から構想があったものなのでしょうか?

Shorkut:カナダに拠点を置くRed Bull Thre3Styleの担当者を通じて、日本のスタジオでレコーディングするプロジェクトがあるという話があったわけだけど、そのオファーの前から曲の素材があって、すでにとりかかっていたんだ。


D-Stylesの『Phantazmagorea』(2002年)は、基本的に全編スクラッチで作り上げた、かなり画期的なアルバムだったわけですが、Invisibl Skratch Piklz名義の今回のアルバムは、どういう内容になっているのでしょうか?

D-Styles:すべてがスクラッチで、3000年代のスクラッチ・ミュージックだ。コンセプト的には同じだね。


そうなると、Qbertの昨年のアルバム『GalaXXXian』のように、様々なタイプのミュージシャン/アーティストをフィーチャーすることもなく?

D-Styles:そう、この3人だけだね。


Qbertの昨年のもう1枚のアルバム『Extraterrestria』は、人間以外に聴かせているのかな、というフシがありましたが、今回のアルバムはどうですか?

Qbert:かなりそういうところはあると思う。自分たちが作る音楽は、全くもって“普通”ではないから。


そうとは言っても、今回のアルバムはどんな人に聴いてもらいたいですか?

D-Styles:かなり幅広いスタイルの音楽が入っている。酩酊状態っぽいものもあるし、ダークなものやジャジーなものも。決してひとつのタイプに集約されない音楽。一般的な人が聴いても、ここまでの音楽がスクラッチでできていることには気づかないだろう。ドラム・マシンもいっさい使ってないし、すべてライブで演っているんだ。
いわばDJバンドで、俺たちはありとあらゆる楽器が演奏できることになる。ドラムでも、ピアノでもね。


Qbertの『Extraterrestria』にもそういう面が多分にありましたが、今回のアルバムは、いわゆるスクラッチ好きのリスナー向けというわけでなく、ジャンルは関係なく広い層の音楽リスナーに向けて“音楽”を聴いてもらおう、ということになりますね。

D-Styles:まさにその通り。

Shorkut:そして、俺たち3人のそれぞれのスタイルもうまく出している。スクラッチ・ミュージックがどういうものなのか全く知らない人たちに向けて、改めて自分たちを紹介してもいるんだ。

D-Styles:最初から何ひとつ変わってないとも言えるよ。ターンテーブル・ミュージックをずっとやってきたわけだし、今なお、俺たちはスクラッチを推しているわけだからね。
今はいろいろなタイプの音楽を作り出しているが、基本にあるのはヒップホップだ。


アルバムのタイトルはもう決まっているのでしょうか?

Shorkut:アイデアのやりとりはしているけど、まだ決まってない。
*その後、アルバムのタイトルは『The 13th Floor』と命名。


どんなフォーマットで発売するのですか?

Shorkut:あらゆるフォーマットでリリースするつもりだ。コレクターズ・アイテム的なものも出すかもしれない。


日本でのレコーディングということで、特に日本的な何かを、例えば雅楽や能のレコードを擦ったり、というのはありましたか?

Shorkut:それはないけど、曲名に含まれたりするかも。こうして日本で作っていることで気力をもらっているところはあるかもしれない。
日本にもDJカルチャーがあるし、これまでも多くのロック・バンドが、日本でライブ盤を録ってきたわけだから。

D-Styles:Red Bull Studios Tokyoが用意してくれた機材もとてもいいね。


みなさんはもう何度も日本に来ているわけですが、日本のアーティストで特に注目している人、あるいはこの人はすごいなという人はいますか?

Qbert:MURO、KRUSH。

Shorkut:MIGHTY CROWN、DJ TA-SHI、DJ KENTARO、DJ KEN-ONE、dj honda……大勢いる。

D-Styles:バンドではMelt-Bananaかな。同じような力強さが、今回のアルバムに注入されている。


そういえば、デス・グリップスのアルバム『The Powers That B』のライナーノーツを書いた時に、Melt-Bananaとのサウンド的な近さについて触れました。

D-Styles:今回のアルバムには、デス・グリップスのヴォーカル・パートをサンプリングした部分があるんだ。


ところで、スクラッチという技術を教えることも、今後もずっと続けていくつもりですか?

Qbert:スクラッチ・ユニバーシティも続行中で、毎週ビデオをアップしていて、ゆくゆくそれらをまとめて、スクラッチ・ディクショナリー(スクラッチ辞典)を作りたいと思っている。今自分たちがやっていることがそのまま自動的に、みんなにスクラッチを教えることになっているんだ。


根本的な話になりますが、スクラッチの細かな技やテクニックというのは、もともと誰も教えてくれない秘技のようなものだったわけです。それをあなたたちが初めて積極的に、広く教え広めようとしたのはなぜですか?

D-Styles:ガキの頃、それなに? あれはどうやってスクラッチしているの?とか訊いても、秘密にしておかれた。それが嫌だったんだ。なぜ、他人を助けず、自分だけなんだ?とね。

Qbert:ビデオゲームのようなものだ。他人に攻略法だとか教えてもらって、助けあうことによって、個々人はそこからさらに上のレベルにあがっていく。DJでもなんでも同じことだね。
スクラッチも「こうかな」とかやっていると、「ん、こっちはどうかな」とか、やればやるほどもっとうまいやり方が出てきて、それを得ることになる。カーマ(因果応報)だ。
俺たちがしているのは「Each one, teach one(人にはそれぞれ伝えられるものがあり、めぐりめぐって、それが自分のところに帰ってくる)」ってことさ。

Shorkut:例えば、俺たちは日本語が話せないけど、DJをすることで、日本の他のDJと会話することができる。そういうことを、ヒップホップを通じて、世界中でわかちあいたい。
そのためにも、秘密にしておかず、わかちあわなければならない。

D-Styles:ずっとバトルとか競争の時代だった。でも他人を助け、知識や情報はわかちあうべきだ。


今説明してくれたことは、あなたがたの周辺では、定着し、広がっていると思いますが、それ以外の人たちについて、同じことが実践されていると感じたことはありますか? ヒップホップ以外のジャンルでもいいです。

D-Styles:グラフィティ・アーティストがそうだね。ジャンルが違うところでは、デスメタルにそういうところがあるのがすごくよくわかる。

Qbert:デスメタルもそうだし、クリエイティヴなバンドにはそういうところがあるね。


Red Bull Thre3Styleに最初にかかわったのは?

Qbert:ほぼ最初からだね。

D-Styles:俺たちはみんな、80年代のDJバトル出身なんだけど、当時のバトルはあの3スタイルズのフォーマットだったんだ。どんなジャンルの音楽でも使えて、そのなかでミックスやスクラッチをしていた。俺たちは、そういうなかから出てきたんだ。